脚本家はドラマや映画制作においては完全な裏方の職業ですが、作品の根幹を作り上げる仕事内容に憧れを抱く人は多く、密かな人気職業であり続けています。
ただ、人気のある職業でありながらも、脚本家のなり方を完全に理解している人はそう多くは無いのが実情ではないでしょうか?
そこで、職業データベース編集部が脚本家へのなり方について現役の脚本家に徹底的に取材を行いました。
取材から知り得た、脚本家のなり方の全てを紹介します。
脚本家の働き方
まず、脚本家はそのほとんどが個人で活動しており、個人事業主です。
作家集団を形成している人もいますが、多くの人は個々に活動しています。
兼業がほとんど
脚本家一本で専業として活動している人は一握りで、一般企業で働きながら兼業脚本家として活動する人が大多数です。
脚本家としては、本格的に売れるまでは、兼業で耐え忍ぶというのが志望者の基本的なスタイルになります。
兼業しやすい職業
シフト制の仕事・アルバイト、派遣社員などの休みやすい仕事を選び、執筆と仕事を両立させている人が多いようです。
なるために必要なもの
資格
脚本家になるために必要な資格はありません。
身体ひとつ、ペンひとつでなることのできる職業です。
学歴・進学先
どんな学歴からでも脚本家になることは可能で、脚本家としての能力以外で学歴で判断されることはまずありません。
学歴、経歴も必要とされないため誰にでもチャンスはありますが、割合的には大学卒が多い傾向にあります。
やはり文章を書く力はある程度の学力、基礎能力が必要と言うことなのかもしれません。
有力な進学先
有力な進学先は存在していませんが、強いて挙げるとすると三谷幸喜さん、宮藤官九郎さんなど昔から作家・脚本家・舞台関係者を多数輩出している日本大学芸術学部があります。
TV業界に多くの人材を輩出しており、脚本家だけでなくメディアを目指す人なら必ず糧になる学部と言えます。
高校を卒業後、ダイレクトに目指す人は少ない
学歴が必要のない脚本家ですが、高校を卒業後、あるいは数年後に、いきなり脚本家として活躍している、できた人はあまりいません。
もちろん高卒の新人がいきなりデビューできるほど甘い世界ではないという理由もありますが、その多くが大学や専門学校、就職を経て脚本家になっています。
あくまでも統計的な判断でしかありませんが、何らかの社会経験を積んでおいた方が脚本家としての深みが増し、成功に繋がりやすいのかもしれません。
必要な能力
脚本をみたプロデューサー、役者に「面白い」と感じさせ作品づくりのやる気を出させる脚本が書けることは大前提です。
さらにプロデューサー、ディレクターなど様々な人と関わる事が多く、コミュニケーション能力が求められます。
視聴率によっては放送の途中で脚本の変更を求められることもあるため、相手の考えを汲み取り、形にする能力が求められます。
また、誰が聞いてもわかるセリフ、言葉にするための豊富な語彙力も求められます。
なるためのルート

脚本家になるためのいくつかのルートを紹介します。
以下にいくつかのなり方を紹介していますが、これはあくまでも脚本を書く一定以上の筆力があるという前提です。
素人からいきなり脚本家になることは不可能で、まずは独学やスクールにおいて筆力を研磨することがなるための第一歩となります。
それらを理解した上での話になりますが、王道かつ確実なのはテレビ局やラジオ局が開催している「シナリオコンクールでの入賞」です。
また、これらのなり方で「脚本家になる」事は一人前の脚本家になれるという事ではなく、脚本を書かせてもらえる立場になるという事です。
※プロデューサーとのコネクションができ、企画書を出すことができる。プロットなど小さな仕事を求められる、など。
①放送局による「シナリオコンクール」に応募
最も王道であり、テレビドラマでデビューする人はほぼ確実に応募経験があります。
シナリオコンクールで賞を取ることによって、主催の放送局のプロデューサー、ディレクターとのコネクションができ、受賞後も企画を提案することが可能になります。
大賞を受賞すれば、基本的には何らかの作品で脚本を任せてもらう事になり、その場合は、半年〜1年かけて打ち合わせを行い、脚本作品の放送に至ります。
ただし、年によっては大賞がなく、佳作のみで放送自体がない場合もあります。
<主なシナリオコンクール>
【テレビドラマ】
・日本放送作家協会:創作テレビドラマ大賞
・フジテレビ:ヤングシナリオ大賞
・テレビ朝日:テレビ朝日新人シナリオ大賞
・WOWOW:WOWOW新人シナリオ大賞
・TBS:連ドラシナリオ大賞
・映人社:橋田賞新人脚本賞
【ラジオドラマ】
・日本放送作家協会:創作ラジオドラマ大賞
・NHK大阪放送局:BKラジオドラマ大賞
・毎日放送:MBSラジオドラマ脚本コンクール
・日本放送作家協会九州支部:南のシナリオ大賞
【映画・その他】
・日本映画製作者連盟:城戸賞
・日本シナリオ作家協会:新人シナリオコンクール
・シナリオ・センター:シナリオS1グランプリ
「シナリオ公募ナビ」というシナリオコンクール、脚本賞の公募情報をまとめたサイトもあります。
http://scenarionavi.blog81.fc2.com/
注意点
注意点としては、大賞を受賞したからといって脚本家としての安定が約束されるわけではありません。
あくまでも脚本家として働けるきっかけを貰える程度で、受賞後の評価が冴えない場合は次回の依頼が来ることはありません。
賞を受賞したとしても、実際に脚本家として喰える人は10人に1人か2人程度だと言われています。
-出身脚本家-
野島伸司 フジテレビヤングシナリオ大賞。「高校教師」「家なき子」など
野木亜紀子 フジテレビヤングシナリオ大賞「逃げるは恥だが役に立つ」「図書館戦争」など
②業界で働く
テレビ業界や映画業界で働きながらコネクションを作る方法です。
ADや事務職といった一般的に募集されている職種に応募し、業界で働きながらプロデューサーやディレクターに自分の脚本を見てもらう機会を作ります。
ただし、脚本家を目指すために業界入りしたというよりも、業界入り後に脚本に興味を持ち勉強を始めた人が多いようです。
-出身脚本家-
北川悦吏子 にっかつ撮影所で働きながら脚本を学んだ。「ロング・バケーション」「あすなろ白書」など
向田邦子 映画雑誌の編集から脚本家に。「あ・うん」など
蒔田光治 東宝の社員時代に「リング」「らせん」などを担当。
③脚本家スクールに通う
脚本スクールに通いながら実力を身につけ、コンクール突破をめざすルートです。
通う中でスクールの先生に認められれば、関係者を紹介してもらえることもあります。
-出身脚本家-
尾崎将也 「特命係長 只野仁」「夏子の酒」「Age35 恋しくて」など。
吉田紀子 倉本聰の富良野塾で脚本の技術を学んだ。「Drコトー診療所」「ハナミズキ」など。
④劇団・構成作家・小説家・芸人から転身
同じ「書く仕事」である演劇脚本や作家などから、脚本家に転身、脚本を担当する事はよくあるケースです。
-出身脚本家-
バカリズム お笑いでの経験を活かして脚本も書く。「素敵な選TAXI」「世にも奇妙な物語」など。
三谷幸喜 劇団サンシャインボーイズ主宰。「古畑任三郎」「ラジオの時間」など
宮藤官九郎 劇団大人計画演出助手。構成作家。「あまちゃん」「木更津キャッツアイ」など。
⑤放送局への持ち込み
相手の迷惑にもなるので実施している人はほとんどいませんが、可能性としては0ではなく、かつては持ち込みから脚本家になる人もいました。
面白い脚本を携えて持ち込みをすれば、認められる可能性もありますが、逆に嫌がられる可能性もあるので推奨される選択肢ではありません。
-出身脚本家-
大川俊道 「太陽にほえろ!」のプロデューサーに脚本を送り、そこから脚本家に。「あぶない刑事」など。
黒土三男 木下恵介(映画監督)に持ち込み脚本家デビュー。「星めぐりの町」「オルゴール」など。
⑥脚本家への弟子入り
現在では一般的ではありませんが、かつては大物脚本家に弟子入りをした後に経験を積み、独立して脚本家になるケースがありました。
脚本家個人が運営している脚本家教室はありますが、弟子入りという形は現在ではほとんど存在していません。
⑦その他
なりたくてもなれない人の方が多い脚本家ですが、人のツテや何らかの流れから脚本家に行き着いてしまう人もいます。
岡田恵和 ライターやDJなどを経験後、知り合いのツテで脚本家に。「いちごの唄」「ビーチボーイズ」など。
吉本昌弘 バイト先で映画関係者と知り合いになりそのツテから脚本家に。「科捜研の女」「毎度おジャマしまぁす」など。
脚本家になった後
上記のなり方である程度業界とのコネクションができれば、そこから企画書の提出やプロットライターとしての活動を充実させて、徐々に関係性を構築していきます。
この段階での脚本家としての地位は業界の入り口程度で、あくまでも脚本の企画書やプロットなど小さな仕事を貰えるレベルです。
この段階からステップアップして一人前の脚本家になれるのはわずかで、この段階で多くの人がふるい落とされていきます。
指名が来るほどの脚本家になること、指名され続ける事(良い脚本を書き続けること)は流れの早い脚本業界においては容易な事ではありません。
何歳までなれる可能性があるのか

結論から言えば、たとえ何歳でも脚本家になることは可能です。
年齢制限の無いシナリオコンクールもあり、明確な年齢制限はありません。
ただし、現実的な話をすれば40歳以上になると脚本家としてスタートすることは難しくなります。※不可能ではない
シナリオコンクールに応募しにくくなる
・フジテレビ:ヤングシナリオ大賞
・TBS:連ドラシナリオ大賞
など、新人を発掘する目的で開催されているシナリオコンクールでは概ね35歳以下の年齢制限があります。
年齢制限のないコンクールだとしてもそれは年齢を制限していないだけで、実際の受賞者傾向をみてみると「勢いのある若い脚本家」を求めている事が見て取れます。
年齢が上の脚本家は使いにくい
脚本の依頼はそのほとんどが、プロデューサーなどのツテから発生します。
自身(プロデューサー)より上の年齢の脚本家には心情的に気軽に声をかけにくいそうです。

プロデューサーも歳上の新人脚本家に「プロット書いて」「企画書持ってきて」とは言いづらいと思います。
感性がついていかない
感性というのは脚本家にとって最重要とも言える能力で、時代の感覚を掴む能力が高いほど、脚本家としての評価も高まる傾向にあります。
年齢制限のないシナリオコンクールでも、実際に大賞を受賞するのはその多くが20代~30代の脚本家志望者となっており、業界が若い感性を必要としていることがわかります。
収入が低い
ある一定の年令になると家族や子供にお金がかかるようになってきます。
そのような状況で収入に安定性のない脚本家を目指すのは、難しいのが現実です。
専業主婦など、パートナーに生活を担保してもらえる状況なら問題はありませんが、男性の場合だと厳しくなるでしょう。
体力がない
緊急の修正や締切前などは、脚本を間に合わせるために過密日程・徹夜続きになる事もあります。
勢いで乗り切れる「若さ・強さ」がないと長期的に続けることは難しいかもしれません。
地方だと不利になるのか
結論から言えば、不利になります。
居住地としては東京が圧倒的に有利です。
シナリオスクールに通う、シナリオコンクールにチャレンジする程度であれば特に大きな問題はありませんが、脚本家として活動を本格化させたいなら東京、最低でも関東圏での居住を考えたほうが良いでしょう。
なぜ東京でなければ駄目なのか
日本の放送に関して東京という存在は絶対です。
テレビのキー局はすべて東京に存在し、制作される演劇や映画もそのほとんどが東京発信で需要が東京に一極集中しています。
そのため、打ち合わせや取材、会議など、あらゆることが東京近郊で行われます。
「会って話ができる脚本家」というのはプロデューサーにとっては脚本家を選ぶ重要な要素のひとつで、脚本家にとっては必須とも言えるアドバンテージなのです。
電話やスカイプでも打ち合わせは可能ですが、熱量・情報が伝わりにくく手間暇もかかります。
そのような状態ですから、地方在住の脚本家が採用される可能性はほとんど0に近くなります。
脚本家の中川千英子さんも
https://note.com/kotoritori/n/n6f7394bf3f3c
プロデューサーは一般に非常に忙しく、脚本家予備軍は「望まれるタイミングで動けること」が、ウリのひとつになるというのが現実です。
(もちろん、筆力があることが大前提です。)住む所は「都内の、なるべく交通の便がいいところ」がベスト。
とおっしゃっています。
また、現在では人気小説家となった湊かなえさんのエピソードも紹介されていました。
ご存知かもしれませんが、湊さんは、もともとは小説家ではなく脚本家を目指していらっしゃったとのこと。
確かインタビュー記事で読んだ話なのですが、シナリオコンクールに入賞した湊さんが、入賞者とプロデューサーが集まる食事会に出たところ、彼女が地方在住と知ったプロデューサーが、今後の脚本家としての仕事の話はまったくせずに、
「東京みやげは何を買うの?」
といったような雑談しかしてくれず、ショックを受けたそうです。制作現場のプロデューサーは、こういう認識なのだということがよく分かる例だと思います。

依頼が尽きない、需要のある人であれば、地方でも活動することは可能だと思います。相手が合わせてくれるレベルの売れっ子であれば。
それ以外の人はプロデューサーとの関係やレスポンスを考えると東京シフトをしかざるを得ないですね。
脚本家をめざす人へ

NHKや民放キー局のドラマ脚本を担当している現役脚本家に、どのような生活・仕事・勉強をすれば脚本家という職業に近づきやすいかをインタビューしました。
色んな人と関わろう
仕事を選ぶなら、キャラクターや職業の引き出しを得やすい多くの人と関わりを持てる仕事が良いでしょう。
例えば営業、葬儀会社、看護師(病院関係)、福祉関係など人との関わりが多い仕事の方が、良くも悪くもネタが生まれやすいそうです。
「事実は小説より奇なり」
という、言葉があるように何気ない日常生活にこそ、アイデアが隠れているものだと言います。
逆に同じ場所で同じことを繰り返す仕事だと、引き出しが増えないため脚本家の職業としては向いていないかもしれません。
※向き不向きの問題です。

いくら想像を掻き立てても事実にはかないません。
人のこそこそ話やアクシデントからネタができることも多いです。
おすすめの勉強法
ドラマを見たり映画を見る時に、なんとなく見るのではなく、なぜこの「映画は面白かったのか(面白くなかったか)、どんな工夫があったのか」を具体的に言語化して分析をして、メモに残すことを繰り返すのは訓練になると思います。
あとは、電車、ファミレスなど人が多く集まるところでは、リアルな人間の話し方などを観察することも大切な勉強です。
まとめ
長々となり方と現状を説明してきましたが、理解しておくべき事は以下の3つです。
筆力・コネがあれば、なることは可能。
②仕事は人のツテ・縁が基本
プロデューサーからの話があって初めて仕事ができる。コミュニケーション能力は重要。
③喰えない前提の職業である
仕事は単発、ほとんどが兼業で安定とは遠い職業。
志望者には少し厳しい現実かもしれませんが、本気で目指すならば実情を理解しておいたほうが良いでしょう。
茨の道であることは確かですが、その道を通った人以外は次のステージに行くことはできません。